文豪、夏目漱石(なつめそうせき)は大学予備門(旧制一高の前身)の入試で、隣の受験生の答案を写したことを告白している。苦手の数学で「見せて貰(もら)ったのか、それともこっそり見たのか、まアそんなことをして……」だそうな▲ぼかしたのは、やはり後ろめたかったからか。漱石と大学予備門の同窓で親友となった正岡子規(まさおかしき)の入試カンニングも有名だ。こちらは英語の単語の意味を隣から聞いて「幇間(ほうかん)(たいこもち)」と書いたが、実は「法官」だったという▲二つの話に共通するのは、答えを教えた隣の受験生が試験に落ち、漱石と子規は合格したことである。明治の入試のおおざっぱさをうかがわせる若き偉人のカンニングだが、今やことと次第では警察が捜査に乗り出す入試不正である▲コロナ対策で隣の席が遠かったからというわけでもあるまい。大学入学共通テストの試験時間中に「世界史B」の問題用紙の画像が外部に送信され、それを見た男性が解答案を返信していたという話である。オンラインカンニングだ▲男性によれば、送信者は家庭教師仲介サービスで知った女性名の高校2年生を名乗る人物で、試しに問題を解くよう依頼してきたという。男性は返答送信後にこの問題が共通テストのものと知り、大学入試センターに通報したそうだ▲そういえば、11年前にも大学入試の最中に問題をネット掲示板に送り、解答を募集したとして予備校生が警察に逮捕された。親切な?「隣の受験生」はネットで探せ――という当世カンニング事情である。
毎日新聞余禄・2022/01/27

毎日新聞余禄・2022/01/27
