2017年05月24日

トカトントン

トカトントン

トカトントン
トカトントンとは太宰治の晩年の短編小説の題名です。
先日、図書館講座で地元の作家前山光則先生が「戦後の文学を読む」と題して3回連続で話をされる第1回目に取り上げた作品です。
作品は手紙の相談者が何かをしようとすれば「トカトントン」という音が聞こえて来て、その後何もしたくないような倦怠感に陥ってしまう、この自分の悩みを某作家に相談し返事を貰うといった筋書きに成っています。
作品だけを読めばノイローゼの青年が医者でもない物書きにお門違いの悩み事を相談している話のように思えます。
彼の作品は学生の頃からあまり読んだことが無かったので私も初めはこの程度の理解しかできません。
でも太宰治という人がどういう人であるのかを予備知識として知っているのと知らないのではこの短編小説の味わい方がごろっと変わるのです。
前山先生もそのあたりはわきまえて居られて本題に入られる前に太宰治の略年譜に基づいて人間太宰治の話を詳しく説明されました。
太宰は中学生の時から文芸に興味を持ち級友らの同人誌に作品を発表している。またこの頃芥川龍之介に憧れを持っていましたが太宰が高校生の時に芥川の自殺に大きな衝撃を受けました。20歳の時弟の死や思想的な悩みからカルモチン自殺を図るが未遂。21歳の時東京帝国大学仏文科に入学、井伏鱒二に会い以後師事、銀座のカフェーの女性と江ノ島で投身し女性は死亡、自殺幇助罪に問われるが起訴猶予になる。26歳の時都新聞社の入社試験を受けるが不採用。鎌倉の山中で縊死(いし)を図るが失敗。その後盲腸炎から腹膜炎を併発して鎮痛剤として用いたパピナールのため中毒症に苦しむ。第1回芥川賞候補となるが次席にとどまる。27歳の時パピナール中毒症で入院。28歳の時小山初代と水上温泉に行きカルモチン自殺を企てるが未遂。帰京後、20歳から同棲していた初代と離別。29歳、昭和13年井伏の紹介で石原美和子と見合いをし、婚約、昭和14年に結婚。33歳の時母たね死去。35歳、昭和19年長男誕生(のちに肺炎により15歳で死去)、小山初代が青島で死去。
36歳、昭和20年の時終戦。昭和22年太田静子を訪ねる。次女里子誕生。山崎富栄と知り合う。太田静子に娘治子誕生。昭和23年3月39歳の時山崎富栄とともに玉川上水に入水自殺。自殺未遂や薬物中毒を繰り返し乱れた私生活の中、戦前から戦後にかけて多くの作品を残しました。代表作は『富嶽百景』(1939年)『走れメロス』(1940年)『津軽』(1944年)『お伽草紙』(1945年)『ヴィヨンの妻』(1947年)『斜陽』(1947年)『人間失格』(1948年)などがあります。
「トカトントン」に出てくる主人公の青年は水戸市に住む保知勇二郎という実在の人です。手紙も太宰治に出しています。しかしこの事を太宰はフィクション化して作品にしました。作品のほとんどが手紙の内容になりますが何かをしようとしたり、考えたりする度に幻聴とも思える「トカトントン」が聞こえて来て脱力感に悩まされ、自分ではどうしようもないほど思い悩んでいるというのです。太宰に幻聴があったかなかったかは分かりませんが、彼の生きざまを見ればそれなりに思い悩むことは人知れずあったに違いありません。太宰の自殺の原因は自身の身体の不調に加え一人息子がダウン症で知能に障害があったことを苦にしていた事などが原因ではないかと思われています。太宰が心酔していた芥川龍之介の自殺の原因は義兄が放火と保険金詐欺の嫌疑をかけられ鉄道自殺したことで、借金や残された家族の面倒を見なければならなくなった為将来に対する不安が原因と言われています。私見ではありますが、人は大なり小なり悩み事がありその悩みに打ち勝てない自分を見いだします。「トカトントン」の最終場面は作家の返事になります。真の思想は、叡智よりも勇気を必要とするものですと聖書のマタイ十章、二八を返します。太宰自身も言葉では分かってはいるのだが解決しようとしてもしきれない自分の状況をこの作品で表したのだと思います。
やがて太宰は悩みを背負ったまま山崎富栄とともに玉川上水で心中します。
平成10年、50回忌を目前にした日に遺族が太宰の遺書を公開しましたが「小説を書くのがいやに成ったので死ぬ」と自殺の動機が明らかになりました。
トカトントン
誰の耳にも「トカトントン」


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Posted by マー君 at 14:35│Comments(0)講座
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